笛吹人バンザイ

No.5 ボランティアひまわりの会

一人暮らしのお年寄りに手作りのおせちを届ける活動を続けているボランティアグループがあります。心温まるこの活動は、もう40年近く継続している年末の恒例行事になっています。おせちの調理から盛り付け~配食まで、二日間にわたって取材させていただきました。お忙しい中にもかかわらず、会の重鎮の方々に設立からの経緯や思い出などをお聞きすることが出来ました。

会の大先輩で元会長でもある渡辺さん

同じく会長経験者の丹澤さん

発足からのあゆみ

ボランティアひまわりの会は、1977年(昭和52年)、旧八代町の有志女性達によって設立されました。当初は婦人会等の会長経験者で組織され、会員も10数名に過ぎませんでした。農閑期の10月から3月を活動期間として、各種ボランティア活動、中でもお弁当作りが活動の主体です。お年寄りや障害をもつ人たちが、住み慣れた地域でいつまでも元気に暮らしていけるように手助けしたいという思いから、生活に欠かせない「食事」を支えるため、手作りのお弁当やおせちを届ける他、ふれあい会食会などを催し、交流の機会を作る活動に取り組んできました。

発足当時はお金も何もありませんから、活動費用は会員から徴収した会費と各自が野菜などを持ち寄って賄っていたそうです。お弁当やおせち作り・ふれあい会食会と年を重ねるごとに充実し、やがて平成6年頃より八代町社会福祉協議会と協働した「食事サービス事業」として、週4回(のち6回)のお弁当作りの一翼を担い、農閑期のみならず一年を通じて活動するようになりました。会員数は最大80名を超える時代もありましたが、現在は50名弱で推移しています。ひまわりの会の歴史は、自発的ボランティア組織がやがて地域福祉の担い手として大きく成長したケースと言えます。当時、ひまわりの会の配食サービスは先進的な取り組みとして関心を集め、県内だけでなく全国から視察団が訪れたそうです。

年末恒例になっているひまわりの会手作りおせち

会員の気持ちが支えるボランティア

会員は農家の主婦を中心に、現在は60代から70代の年齢層が主体となって活動しています。会に参加するきっかけはそれぞれですが、多くの会員が一番にあげるのは「恩返し」という言葉です。「実家の母が以前、ひまわりの会のおべんとうを楽しみにしていた一人です。母の頂いた温かいお弁当を、いつか自分も作りたいと思っていた」という一文を、文集(八代町社会福祉協議会解散記念誌/平成16年発行)に寄せられた角田節子さん。こうした恩返しの気持ちで参加されている会員さんが実に多く、会の長い活動歴史を物語るものです。その他、先の文集から拾ってみると、「一人暮らしの母にしてやれなかった思いを、食事作りボランティアに参加できて幸福(矢崎繁子さん)」「ボランティアへの参加は生涯学習のひとつ(石原初子さん)」「尽くして求めず尽くされて忘れずが私の信念(河西利子さん)」等々、会員の方々の思いやこころざしの高さが垣間見えます。

会の活動が40年近くも続いているのは、こうした会員の気持ちがあったからこそで、誰かを手助けする気持ち、人を思う気持ち、地域のきずなを大切にする気持ち。そして今日もこのお弁当を待っている人がいるという責任感、自分が必要とされている・誰かの役に立てる喜び。色んな気持ちが集まって、ひまわりの会を支えてきたのだと思います。同様に、会員にとってひまわりの会は、生きがいや喜びであり、生活の一部ともいうべき存在です。仲間との楽しい場であり、無かったら淋しいものです。仲間づくりという意味でも、様々な交流が生まれていきます。同じ時期に役員をしたメンバーが任期後も会合を持つ事は少なくなく、苦労を共にした仲間ならではの付き合いが続いているそうです。

調理は衛生面に大変気を使う上、味付け・食べやすさ・栄養・色どりなど、様々な気配りが必要です。ひまわりの会の食事作りは、野菜の切り方ひとつとっても他人のやり方を知り教わるといった、各人の技術を教えあう場でもあるのです。こんなエピソードをお聞きしました。農閑期に月一回の会食会をしていた折、誕生月のお年寄りへ紅白の「鶴の子餅」を手作りして差し上げた所、大変感激して喜ばれたそうです。和菓子屋を営む会員さんの指導で、プロ並みのお菓子を作ることができたのです。おかげで当時のメンバーの多くがその技を伝授されて鶴の子餅を作られるそうです。

会を始めた当初は、「ボランティアなんてヒマ人のやること」と言われる時代だったと言います。活動を継続することで、徐々に家族や周囲の理解と協力を得られるようになりました。かつて、お弁当作りの担当が月一回から二回、週二回が三回・四回と増える度に役員会で検討したそうですが、反対する人は一人もいなかったそうです。それほどに全員が一丸となって会の活動に取り組み、農繁期は農家以外の人が中心になり、逆に農閑期は農家の人たちが中心にといった具合で、お互いに融通し合い助け合いながら、八代町の食事サービスを支え続けました。その活動も笛吹市の誕生と共に社協が合併され、八代町単独の食事サービスは事業形態が変わり、介護保険との兼ね合いもあって、ひまわりの会のお弁当作りは縮小されていきました。しかし今も農閑期を利用して、一人暮らしのお年寄りへ月一回のお弁当作りの他、年末恒例のおせち作りは、毎年途絶えることなくずっと継続されています。

一人暮らしのお年寄りへの月一回のお弁当作り(八代総合会館料理実習室)

お弁当作りの当番は持ち回り

会員の栄養士さんが作る献立

手作りおせちで心をつなげる

手作りおせちを届ける活動は発足当時から行っている、会のシンボルとも言うべきものです。一人暮らしのお年寄りに元気でお正月を迎えて欲しい、手作りおせちで少しでも食卓が明るくなればという思いから始まったそうです。おせち作りの費用は、桃の花まつりや福祉祭りといったイベントでおでんや野菜おこわを作り販売した収益金と、笛吹市社会福祉協議会からの援助(赤い羽根共同募金)で工面しています。毎年ほぼ100食を作っているそうで、メニューは例年通りの顔ぶれで20品目以上あります。紅白なます(大根と人参)・酢ばす・伊達巻・ごまめ・黒豆・きんぴらごぼう・お煮しめ(里芋、人参、たけのこ、干しシイタケ、結び昆布、 手綱こんにゃく、レンコン、高野豆腐、絹さや)・紅白カマボコ・チキンロール・ホタテの旨煮・有頭海老・栗きんとん・紅白羊羹・みかん・チョロギなど、手作りしてないのはカマボコと彩りのチョロギ・みかんだけという見事さ!おせちを作り始めた当初は、本を読んだり料理の先生に聞いたり試行錯誤したものの、お年寄りの方々の感想も参考に改良を重ね、現在のメニューになったそうです。

きんぴらごぼうに紅白なます

きれいに面取りされた里芋

正月の祝い肴ごまめ

高野豆腐に人参、結び昆布

長寿の願いをこめるという海老

干しシイタケの含め煮

つやつやふっくら黒豆

ゴボウと人参を鳥モモ肉で巻いたチキンロール

穴が開いて見通しがよいという縁起物の酢ばす

めでたい紅白に並べたカマボコ

ホタテの旨煮

手綱こんにゃく

暮れも押し迫った12月27日、「笛吹市八代働く婦人の家」の調理実習室でおせち作りがスタートします。長年のお弁当作りで培ったノウハウとチームワークの良さが発揮される時です。会員それぞれ誰が指示を出すまでもなく、自然に持ち場で仕事を始め、手際良く作業を進めていきます。時間のかかる黒豆など数日前から作るメニューもありますが、ほとんどの料理は今日27日に仕込んでしまいます。気をつけているのは、やはりお弁当作りでも一番注意している「食中毒」。そしてお年寄りが食べやすいように、切り方や煮方も気をつけます。ひとつひとつの食材を心をこめて料理する事、発足当時から変わらないひまわりの会のポリシーです。朝9時から午後3時過ぎまで、温かい湯気がモウモウと立ち込める調理室は活気にあふれて、美味しい香りに満ちていました。

笛吹市八代働く婦人の家

今年も美味しく作るよ!

鬼すだれで巻いた伊達巻

皮むきや切り物も大量です

活気あふれる調理室

出来上がったお料理はボールやトレーに移します

外は師走の寒さでも、湯気のあがる調理室はあったかい

翌28日は、いよいよおせちの盛り付け作業です。おせち料理は盛り付けも大切な味のひとつなので、会員の皆さんも真剣そのものです。ごまめや栗きんとんを小分けによそう人、お煮しめのひとつひとつを二人一組になって盛り付けていく人、カマボコを紅白に並べる人などなど、大勢の人が長机に並べられたおせちの容器に向かっています。途中、紅白なますのスペースが淋しいというので急遽、酢バスを作り始める場面もあり、臨機応変に対応する皆さん。徐々に盛り付けられていくおせちに赤い海老と橙色のみかんが載せられると、一段と華やいだ雰囲気が広がります。「わあ、きれいだね~!」会員の皆さんの言葉に思わず頷きます。出来上がったおせちは本当に花が咲いたような美しさで、届けられたおせちの蓋を開けた時、きっと誰もが心浮き立つような素晴らしい出来栄えです。会員の皆さんも出来上がった100食分のおせちを前に、満足そうな笑顔です。ひとつひとつ確認しながら蓋をして、最後に一枚の紙をはさみます。そこにはこう書かれています。

みなさんへ -ひまわりの会より-
心をこめて作りましたよ。
どうぞ皆さん、ゆっくりお食べくださいませ。
味付けは少しだけ塩分を控えめにさせてもらいました。
皆さん、よいお正月をお迎え下さい

盛り付けやすいよう、ボールやトレー・鍋に用意されたお料理

カマボコは紅白に揃えます

位置を確かめながら入れていきます

二人一組で盛り付け

次々に盛り付けられていきます

真っ赤な海老が載ると豪華さが増します

「みかんってこんなにきれいだったんだ~」と感嘆の声

完成!花が咲いたようにあでやか

ひとつひとつに紙をはさんで閉じます

メッセージが書かれた紙

午後には出来上がったおせちを届けるのですが、会員さんが直接届ける他、配食ボランティアや地区民生委員・社協職員の方々の協力で、八代町内のあちこちへ手分けをして届けてもらいます。ひまわりの会の会長(風間春江さん)に付いて、お届けの様子も取材させていただきました。風間さんは配食ボランティアもされていたので、たくさんの方々とお知り合いでもあります。玄関口で「こんにちは~」と声をかけると、中から笑顔のおばあちゃまが応えます。「毎年、おせちを楽しみにしています。一人暮らしの私には本当にありがたい事」85歳になられる鶴田さんは感謝の言葉を重ねます。風間さんは近況や体調などを気遣い、しばし歓談します。ちょっとしたこの時間がとても大切な時なのだと思います。気ぜわしい現代のスピードに慣れてしまった私たちに、人を思う心やお互い様の精神、そして自分自身の人生をも考える機会を与えてくれる。心と心をつなげて、共に生きていく。そういう時間を私たち一人ひとりが持てたなら、また一歩、地域がより良い方向へ前進していくのではないでしょうか。前述の誕生祝いに鶴の子餅を贈られたお年寄りが、「自分にも誕生日があったんだ」と涙ぐんで喜んでくれたというエピソードが忘れられません。

八代福祉センター前で出発式

担当のケースを持って配達します

楽しそうにお話しする風間さんと鶴田さん

照る日もあれば曇る日もある長い年月、太陽に向って咲くヒマワリの如く尊いこころざしを持ち、倦まず弛まず活動を続けてこられたボランティアひまわりの会。超高齢化社会や孤立化が取り沙汰される現代に、会の存在意義は益々増大し地域に必要とされています。ひまわりの会の精神が、末永く受け継がれていくことを切に願ってやみません。お忙しい中、快く取材を受け入れてくださった会長の風間春江さん(1996年入会)、会の大先輩である渡辺美津江さん(1981年入会/元会長)と丹澤尚子さん(1989年入会/元会長)、そしてひまわりの会の皆様に心よりお礼を申し上げます。(取材:ちゃめ/2012.2)

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