一宮浅間神社おみゆきさん(後編)

甲斐市の信玄堤で神事を終えた御神輿は一宮を目指して発輿。一宮町に到着後、神沢、土塚の2地区で約2時間、御神輿が練られ、午後7時、バイパス沿いにある大鳥居の向かい側まで帰ってきました。一ノ宮地区の担ぎ手に交代し、交差点の信号が青に変わるや否や急ぎ足で4車線道路を渡ってきます。御神輿はその年の当番区がある方角から神社に入ることになっていて、今年は神社南側に位置する神沢、土塚地区が当番ということで大鳥居から帰ってくるコースになりました。ちょうど「笛吹市 桃の花まつり」で点灯中の大文字焼きを背に御神輿が練り歩く、そんな絵になるシーンが見られました。

御神輿が帰ってくるとともに雨雲が黒く垂れ込めた空は暮れてゆき、辺りは夜の闇に包まれました。大鳥居から露店が立ち並ぶ参道までは街灯が点々とあるだけの暗い道が続きます。「そっこだい! そっこだい!」と響き渡るその掛け声は普段耳慣れない言葉のせいか外国語のようにも聞こえ、暗闇の中で聞いていると、昔、久米明がナレーションをしていた 「素晴らしい世界旅行」という番組で見たどこか遠い国の祭りのように思えてきます。地面を踏み固めて練り歩く力強い2拍子のリズムは魂を揺さぶる大地の鼓動のようでもあり、1,300年の伝統のある祭りが作り出すこの独特な雰囲気に何か特別なパワーを感ぜずにはいられませんでした。

また、暗闇にいると聴覚が敏感になるのでしょうか。明るいうちは鮮やかな着物と威勢のいい掛け声ばかりに気をとられていましたが、シャンシャンと鳴り響く軽やかな鈴の音のなんとも心地良いことに気づかされます。御神輿に吊るされた大きな鈴と腰から下げたたくさんの鈴。16人の担ぎ手達の足並みがピッタリと揃ったその時、鈴の音は一つの音となってシャンシャン、シャンシャンと美しく響き渡るのでした。

参道の両脇に所狭しと軒を連ねた露店群。そのいちばん手前まできました。そこは御神輿がやっと通れるだけの道幅しかありません。なのでここは練り歩かずに慎重に担いで運ぶといった感じでゆっくりと神社に向かって進んで行きます。そして銀行の灯りが煌々と辺りを照らす神社前でひとしきり御神輿が練られた後、神社の石鳥居を通過。さらに随神門をくぐり、境内に集まった多くの観衆に見守られながら、徐々に拝殿へと向かって練り歩いて行きます。

拝殿前まで来ると、担ぎ手達は祭りの終焉を惜しむかのように最後の最後まで御神輿を練り続けます。御神輿の重みが肩にこたえてるはずですが、顔を歪ませるどころかむしろ喜びに満ちた表情で担ぎ上げ、そんな担ぎ手の姿に観衆からも名残惜しそうに熱い視線が注がれていました。

そして、ひとしきり練り終えた午後8時半。御神輿が氏子らの手に渡り、拝殿へと収められました。担ぎ手達は拝殿前で労をねぎらい、無事を称えて万歳三唱。1年1度のこの日のために準備をし、練習を重ねてきた一宮男の晴れ舞台。「おみゆきさん」に全身全霊を賭けた彼らの祭りはここで幕を閉じました。

この後、拝殿では午後9時まで還幸祭が執り行われました。各地区の氏子総代らが見守る中、祝詞(のりと)が上げられ、朝の神事で御神輿に入れられたご神璽が本殿へと還りました。(取材:しんたま)

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