地産地消ビジネスを起業する

2010年10月19日、ふえふき旬感ネット主催の農商工連携人材育成プログラムの第4回講座が「地産地消ビジネスを起業する」と題し、御坂町「学びの杜」で行われました。今回は「農産加工のカリスマ」と呼ばれる小池芳子さん(小池手造り農産加工所社長)をお迎えして、午後1時半から講演会、その後事前に希望された方々との個別相談も設けられました。笛吹市内外から、直売所関係者や加工組合の方々、個人で加工をされている方など、農産加工に熱い人達で会場が埋まりました。

小池さんは長野県下伊那郡喬木村で農産加工品を作り25年になります。農家が減少していく中で生き残るためには農産物に付加価値をつけ、生産した物を全て収入につなげていくことが重要と農産加工の技術を研鑽されてきました。本物の味、安心して食べられる加工方法に重きを置き、特に果物の加工と健康食品に力を入れ多くを商品化されています。全国各地で相談・指導・講演を行ない、著書も多数出版しておられます。2010年には黄綬褒章を受賞されました。

講演のはじめに小池さんは、山梨の農産加工の印象についてこうおっしゃいました。「山梨県内で売っていたぶどうのジュースが、山梨産のぶどうを使ったものではなかった。日本一の果物があり、おいしい味を持っているのにもったいないじゃありませんか。材料は山ほどある。だけど活きていない」
桃とぶどうの生産量が日本一の笛吹市にとって耳の痛い、けれどもありがたいお話です。小池さんの地元の長野県南信州地区では、すでに20年前から農産加工を勉強する活動が行われているとのことです。この勉強会で学び育った人材が今では新しいネットワークを全国的に広げ、更に農産加工を発展させようとしているそうです。先日小池さんが講師の一人として参加された、全国農産物直売所サミットでも、情熱あふれる参加者が遅くまで残って意見交換が行われ、「農産加工無くして直売所は成立しない」との思いで一致、大変な盛り上がりを見せたということです。
ここで小池さんはご自身の加工への思いを、一段と声を張り手振りも交えて、力強くこうおっしゃいました。
「たとえひと房(の農産物)でも生命。生きていますから、それを畑に戻すなんて食に対して失礼。これに気づかないでいる農業には未来がない。私はそう思ってやっています」
この農産物に対する愛情あふれる熱い言葉に、小池さんが「農産加工のカリスマ」と呼ばれるゆえんが、私にも少し解ったように感じました。

小池さんの会社では「技術こそが宝物」をモットーに、約30名の従業員が働いています。社員が自主的に早出・残業するほど忙しく、それは農産加工自体にまだまだ需要があるからだということです。けれども、小池さんが言われるには、直売所が少なかったころは手造りというだけで売れた加工品も、直売所が増えた現在は他に何か特徴がなければ売れないとのことです。それではどんな特徴を持たせればいいのかといえば、「技術を磨いて、おいしい。自信のもてるものを売るしかない」と、基本の大切さを説かれました。

農産加工とは地元の材料を地元で加工することですから、「地産地消」と同じ意味だと小池さんはおっしゃいます。地域にあるものを無駄なく工夫して利用する、それが地域ブランドだということです。活かせる部分は全て工夫して、今までなら捨てていた物を活用していくところに、農産加工の意義があるということです。山梨は桃とぶどうの生産量が日本一なのですから、桃とぶどうを使った加工品でも日本一になれるはずです。現在そうなっていないのは、果物を始めとする地域資源を全て活かしていないのではないかと、小池さんはおっしゃいました。

最近は輸入農作物対策として農林規格(JAS)が厳しくなってきました。小池さん曰く、食品衛生法よりもJASの方が厳しいとのことです。これに国民の健康維持をうたう健康増進法を加えた三つの規則を守った上で、農産物は加工していかなければなりません。厳しそうに見えますが、「安心・安全な本物を作るという基本さえ外さなければ、何も怖いことはない。ごまかそうとするからトラブルや事故が起きる」と小池さんはおっしゃいました。
また、売れ行きが落ちてきた時の打開策として、複合化というキーワードを上げられました。たとえば、りんごジュースが売れなくなったら、ニンジンと合わせてブレンドジュースにするなど、複数の材料を合わせることで加工の可能性がもっと広がります。ヒットした商品を別の材料で作ることは出来ないか、同じ材料を使って別の商品を作ることが出来ないかなど、様々な視点でアイディアを出すことが商品開発の基本とのお話でした。

マーケティングについて注意すべき事例として、小池さんはこの様に話されました。新規に加工を始める人の多くは自分たちの好みの物ばかり作りたがります。しかし、自分たちの嗜好だけではなく、消費者の求めるものをバランスよく汲み取ることが大切とのお話に、頷く方が大勢いらっしゃいました。また、常に旬の物を提供するなど相手が何を求めているか考えて、気配りの出来た誠意ある仕事を長く続けていると、人と人との交流が生まれます。すると上辺だけでなく本音で情報を教えてもらえ、正確なマーケティングの基礎になります。大切なのは人脈を作り、人を大切にすることと、小池さんは強調されました。

地域経済に目を向けることも大切です。「自治体や企業まかせでなく、一人ひとりが地域経済の担い手という認識を持って、地域で作った物をより高い価格で流通させるには、どうすればいいか考えないといけない」と小池さんは言われます。地域の経済がしっかり確立していれば、景気全体が下降線になった時も慌てなくても済むということです。地域産業は収益をあげることも勿論大切だが、生産農家に多くの利益を配分して農家の収入を上げていくことが重要とおっしゃいました。地域全体が豊かになることが経済効果を考えた経営であると小池さんは考えておられるようでした。

本講座に係わりの深い農商工連携について、小池さんは継続的に続ける難しさを語り、どうしたら問題点を解消できるのかを、ご自身の関わった事例を上げて話されました。それは一時期にたくさん収穫されてしまったタケノコを、加工して上手く消費する方法はないかという、隣村からの相談がきっかけでした。はじめは小池さんも心配でしたが、給食センターに声をかけたところ、直ぐに消費されてしまったと言うのです。後日小池さんが給食センターから聞いた話によると、今までは九州の業者からタケノコを買っていたといいます。同じ地域内なのに地元に材料があることを知らなかったのです。小池さん(工)が生産者(農)と給食センター(商)を結びつけました。その事業の立ち上げの際に少し珍しいことをしたそうです。お互いに責任を持ってこの事業に取り組むという誓約書を取り交わし、テレビ局や新聞社などを呼んで調印式まで行いました。大袈裟と言う人もありましたが、そのことで責任感も増し、お互いの信頼も深まり、有意義な農商工連携事業が生まれたそうです。ここでも「人と人のつながり」が息の長い連携事業を生むものだと小池さんはおっしゃいました。

そして起業にあたり欠かせない資金運用について、小池さんは、「銀行から借りる必要は無く、機械や道具は人脈を通して無理をせず揃える方が良い」とおっしゃいました。最初は小さい経営規模でも利益の中から資本投資し、だんだん大きくする運営が大事だとご教示をいただきました。
また自分達で一から作りあげた直売所と違い、行政などに土地や建物を用意してもらった所は危機感が足りない、そこに甘えずに経費を正確に把握しなければ、本当の意味での利益を得ることは難しいとおっしゃいました。そして「仕入れた加工品」「直売所自ら作った加工品」「野菜などの生鮮品」、この三本柱のバランスがよい直売所は経営がうまくいくという助言もいただきました。時間が迫ってしまい、まだまだ伝え足りない様子の小池さんでしたが、「だから直売所に加工は必要不可欠なものなのです」と約2時間に渡る講演を結ばれました。

この後の質疑応答も、この機会を無駄にするものかと、参加者の皆さんから気概ある質問が続き、すごい熱気でした。個別相談に至っては、それぞれ持ち時間いっぱいまで使って、それでも足りない程。そこでも随所に「経営者は燃えていなければ」「本物の価値をお客様に周知させること」「黒字をただ貯めておいてはいけない」等々、カリスマらしいアドバイスをいただきました。
農産加工に限らず「本当の意味での安心・安全」「人と人との心の交わりこそ大切」という小池さんの基本精神は、万事に渡る人生の教訓だと胸に残りました。どうもありがとうございました。(取材:三言居士)

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