小布施まちづくり視察レポート

2009年11月24日、笛吹市の市民活動支援課が主催した『小布施まちづくり視察研修』に旬感ネットのスタッフも参加させていただきました。小布施のまちづくりの取り組みをご紹介下さった、江戸川大学の鈴木輝隆教授も同行して解説をして下さいました。参考になることの多い、有意義な1日でした。今回の視察研修で学んだことを、私なりにレポートしたいと思います。

長野県小布施町

平日でも訪れる人は多い

りんご

名産品、りんごの季節…

関悦子さん(ア・ラ小布施)

まちを案内して下さった関さん。元気いっぱいの素敵な方…

路地裏

細い路地を歩くのが楽しい。

栗の木で舗装された散策路

散策路の舗装は「栗の木レンガ」。柔らかくて暖かい。

北斎館

北斎館周辺

今回の視察先は、長野県小布施町。栗のお菓子で有名ですね。人口1万2千人の小さな町ですが、そのまちづくりは全国から注目を集めています。今回は小布施町を訪ね、まちづくりに関わっていらっしゃる4人の方に、それぞれのお立場からお話をしていただきました。

市村良三町長

関悦子さん(ア・ラ小布施)

富岡義仁会長(はよんば隊)

花井裕一郎館長(まちとしょテラソ)

現在、小布施町に来る観光客は年間120万人にものぼります。なんとリピーター率は全国トップだそうです。なぜでしょうか?海外旅行へ行って、知らない町を歩くのはとても楽しいですよね。その町の独特の雰囲気を肌で感じることができるのが、旅の醍醐味です。町の人に混じって市場で買い物をしたり、地元の人と言葉を交わしたり…。整備された有名な世界遺産を見て歩くのとは、また違った楽しさです。とても新鮮だし、それでいてリラックスできて…。小布施の町を散策する人は、そんな楽しさを味わえるのではないでしょうか。

高度経済成長による日本の町並み開発は産業優先で、統一された美観を持たず、結果として日本全国どこでも同じような、個性の無い景観となってしまいました。どの地域も観光収益を見込んで豪華絢爛なモニュメントや施設を作ることに血道をあげ、その土地固有の文化や景観は、振り返られる事無く破壊されて行きました。しかし、そんなありふれた観光地はどこか味気なく、時に来訪者に失望感を与えることさえあります。

そんな中、小布施の町が観光客に好感を与え、何度も訪れたくなる魅力を持つのは、根底にある観光の概念の違いではないでしょうか。市村町長がお話してくださいました。「小布施はまず、そこに暮らす住民の生活を優先したまちづくりを進めてきました。その上で、町に来たお客様を町全体でおもてなししようというのが小布施の観光理念です。お客様と町民の交流の結果として、また来たいと思ってくだされば良いのであって、すぐに商売にならなくても構わないのです。」

約30年前に小布施の町民の方々が始められた『町並み修景事業』というのは、住民の暮らしやすさを優先した生活環境の整備事業です。「内は自分のもの、外はみんなのもの」という概念を基底に、この土地に受け継がれてきた従来の建築を基調にした、調和のとれた景観を作り出し、町の魅力を高めました。

また『交流のまちづくり』として、町民が自分の庭を開放する「オープンガーデン」に参加し、観光客を含め、誰もが個人宅の庭を通って、町を散策できるシステムを作りました。町の人と訪問者の交流が生まれやすいしくみです。「小布施はそもそもが商人の町なのです。人を拒んでいては商売が成り立たないという思いが、町に昔からあるのでしょうね。」と言うのは町を案内して下さった関悦子さんの言葉です。町民は自宅に花を植え、丹精込めた庭を見せることで、観光客のおもてなしに参加しています。観光客は、住民の生活、その息づかいまでも感じることができ、自然と親しみを覚えるのです。町には適度な緊張感があり、住民の生活に張りを与えています。

個人宅の庭を通って、町を散策できる

本当によそのお庭を通って行きます…

丹精込めた庭でおもてなし

こちらも…

小布施はなぜ、このような先進的なまちづくりを実現できたのでしょうか?それはこの土地の歴史にヒントがあります。幕末にこの地に住んでいた知識人、高井鴻山は、全国から葛飾北斎をはじめとした文化人を小布施に招きました。高齢にも関わらず、北斎は何度もこの田舎町を訪れたそうです。鴻山宅は一流の文化サロンとなり、田舎町でありながら、小布施には常に先進的な考えが吹き込まれていました。そんな気風の中で、率先してまちを作っていこうというリーダーが断続的に現れます。町の外部から来る『まれびと』を受け入れる気風も、鴻山の時代から受け継がれたものです。現在のまちづくりにおいても、デザイナーや建築家など各分野の専門家を招き、意見を聞いています。

参加者

参加者が歩いているここも、実は人のお庭…

また、小布施のまちづくりでとても感心させられることがあります。町のことを決める時は、関わる人々が集まり、徹底的な話し合いを重ね、住民の意思を確認しあうということです。一つのプロジェクトを進める為に、委員会、作業部会を結成し、実現可能な、さらに継続可能な仕組みを、皆で念入りに考えて行くのです。新しい取り組みには、当然、賛成意見も反対意見も出てきます。時には激論となることもあるそうです。そんな時は、「町のためにはどちらが良いのか」を基準に意見をまとめていくそうです。

「民間出身の市村町長は、まちづくりを町民に振るのが上手なのです。」と、富岡義仁さんはおっしゃいます。「そこに住んでいるのだから、何をやるかのソフト面は町民が考えなさい。行政はその後押しをしましょう。」と言われたそうです。「最初は何をやったらいいのか戸惑った…」とおっしゃる富岡さんですが、昔「藩の用場」であった広場『はよんば』を拠点とし、農村を活性化する取り組みにチャレンジなさっています。「かつての様に、年寄りも、子供も、笑い声が響く広場にしよう!」と、お祭りなどを企画されています。今まで、小布施の観光は北斎館周辺の地域が中心でした。しかし近年は、懐かしい景観を生かした、農村部を散策する観光も始まっています。同じく果樹農園の「ほっとする」ような景観を保有する笛吹市としては、大変参考になるニューツーリズムです。

開放的な図書館

図書館ぽくない!

参加者

まちとしょテラソ外観。「今日は校庭から行きましょう…

参加者

子供コーナーの書棚は子供の目の高さ

参加者

ここに寝そべって読書なんていいな…

また最近、小布施には他の地域には無い素敵な図書館ができました。「まちとしょテラソ」は小学校の校庭続きにあり、学校が終わると子供達が駆け込んで来るような開放的な図書館です。以前の図書館は建物の3階にあり、構造的に利用しにくい面がありました。子供もお年寄りも使いやすい図書館を、町の人たち自身が熱望しました。どんな図書館にするか、プロジェクトチームを立ち上げ、何度も何度も会議をもって、建設を実現して行きました。出来上がったのは、従来の常識に捕われない斬新な図書館です。「運営にあたって、どうすべきか迷った時は、図書館を作ろうとした時の、構想理念に立ち返って考えることにしています。」というのは花井裕一郎館長のお話です。今、行政の施設の中には、そもそもの理念を忘れてしまったものも少なくないように思います。誰の為の、何の為の事業なのかを常に忘れない…。基本でありながら、とても大切なことです。小布施の人々は、みんなの欲しかった図書館を、『町民力』で作り上げたのでした。

町は町民のものです。よりよい町にしていくのは町民自身です。小布施の人には、「住民一人一人が、町の在り方に責任を持とう」とする姿勢が強く感じられました。皆で徹底的に話し合い、専門家の意見を取り入れ、長い目で見た未来、循環する生活のしくみを考え、実現して行く…。理念のある、成熟した地域の在り方を見せていただきました。笛吹市も町民力の強い市になりませんか?一人一人の意識を変えるだけで、それは始まるのです。 (取材:さっさ)

 

●江戸川大学の鈴木輝隆教授 http://www.edogawa-u.ac.jp/~tsuzuki/index.html
●まちとしょテラソ http://www.machitosho.com/
●小布施町 http://www.town.obuse.nagano.jp/
●ア・ラ・小布施 http://www.ala-obuse.net/index.php


 

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