2009 笛吹の夏祭り 石和温泉花火大会レポート

濃紺の夜空いっぱいに広がる冠菊(かむろぎく)。スローモーションのように静かに開いて、やがて金の星屑になりました。金色の粉が空から降ってきて、私を包みます。
河原にいる全ての人に降り注ぐ大きな花火、大きな空。これが石和の花火です。
枝垂れる花弁の中に見たものは、もう何年も前のあの時の光景。美しくはかない思い出は、花火とよく似ているからでしょうか。

石和温泉花火大会の様子

今年も20万人もの人々が、河原へ集まって来ました。私のように花火を見ながら、何かを思い出している人もきっと少なくないはず。
打ち上げる時の振動も、観客の歓声もすぐ近くのはずなのに、なぜか遠くに聞こえて…。火薬の臭いが次々と過去を呼び起こします。目の前で繰り広げられるリアルな花火はこんなにも胸を高鳴らせているのに、私の一部は遠くへ浮遊して…。夜空に描かれる光の花たちを、不思議な感覚で見つめていました。

バチバチっと小気味よい音を立てて走る仕掛けの点火。垂直に天まで昇って行くトラの尾。この大会では定評のある数々のスターマインは、重なる色の艶やかさにため息が出ます。緑やピンクといった中間色は、金属の粉の配合が難しいそうで、花火師たちの腕の見せ所。打ちあがった時の炎の色を思い描きながら、黒一色の火薬を混ぜ合わせます。夜空で一斉に着火して、一斉に消えるよう、花弁となる星の大きさが揃う様に火薬をかけていきます。翌年の為に地道に作り貯めて、夏には全てを打ち上げる。炎が燃えているのは、ほんの一瞬です。短く燃えて、パッと散ってしまうから、美しくて哀しい。でもだからこそ、こんなにも心に残って、こんなにも胸をしめつけます。

花火

後半のプログラム、笛吹市内の5つの地区で打ち上げる大輪のバラは、石和をぐるっと囲むように、次々とリレーされました。5ヶ所に散った花火師達は、闇の中で息をひそめて自分の順番を待っていたのでしょうか。チームワークを感じさせる盆地ならではの贅沢な演出に、歓声が上がります。

花火が終わって帰途につく人々の、浴衣の襟足や下駄の音がしっとりと艶めいていて、いつまでも現実に戻れずにいました。

駐車場の方向が分からなくなってしまった私に、警備員の人たちが優しく丁寧に教えてくれました。歩きながら思い返していたのはフィナーレの400mのナイアガラ。まぶしい炎に浮かび上がった、笛吹川の銀の水面が夢のように美しくて、切なさが胸を離れずにいました。 (取材:さっさ)

 


 

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