「甲斐いちのみや大文字焼き」舞台裏レポート

炎、燃え尽きるまで…
感動“大”のアツい舞台裏(その3)

■本番当日

【8月16日 (日)晴れ】

午後4時30分。麓の観光農園で結団式を終えた笛吹市消防団の団員50名が続々と入山し、現場は徐々に本番モードに。吉原分団長の指揮のもと、団員たちはまず、下草や周囲の木々に火が燃え移らないように辺り一帯に水を撒く作業にとりかかった。ホースを肩に担いだ団員たちが斜面を下りて、位置につく。小型ポンプのモーターが唸りはじめ、放水開始。ホースから水が勢いよくほとばしり、時折、霧状の水しぶきが風に煽られ、さわやかな涼を運んでくる。暑さもようやく静まりかけた夕暮れどき、辺りがだんだん薄暗くなる中で放水作業は約1時間にわたり入念に行われた。

ホースを肩に担いだ団員たちが斜面を下りて位置につく

一方、午後6時より大久保山から程近い広厳院(こうごんいん)で採火式が始まった。本堂ではお灯明がともされ、住職らの読経が響き渡る。その厳かな雰囲気に江戸時代から続く「大文字焼き」の歴史と伝統が偲ばれる。お灯明は提灯(ちょうちん)に移され、お寺を出発。ふれあい文化会館前のイベント会場を経由して、7時、大久保山の現場に到着。この小さな火がやがて山の斜面を覆う大きな炎となるのか…今はまだ想像もつかない。

点火の瞬間を待つ

午後7時45分、人員配置。松明を持った団員たちが次々に斜面を下りて、それぞれが受け持つ井桁の傍についた。点火場所は「大」の字の中央。漢字の第一画目になる横棒と左払い、右払いの交わるところだ。点火5分前、「ライトを消せ!」とヘルメットのライトを消すよう上から指示が飛ぶ。ライトダウンするのは「大文字焼き」をよりきれいに見せるための配慮だ。指示は口伝えに下まで伝わり、辺りは徐々に闇に包まれてゆく。中央の点火場所で提灯の火をもらい受けた親火松明が、そこだけを明るく照らす。無線機の声が「3分前」…「1分前」…と、時を知らせる。そして10秒前、点火までのカウントダウンが始まった。いよいよ待ちに待った「大文字焼き」の始まりだ。「…5、4、3、2、1、ゼローッ!」

午後8時、親火松明から井桁、井桁から松明へと火が渡り、中央の点火場所から一斉に火の手が伸び、山の斜面に巨大な炎の「大」の字が浮かび上がった。点火と同時にすぐ脇の麓から打ち上げ花火が上がった。火は激しく燃え盛り、パチパチッと薪が爆ぜ、火の粉が飛び散る。炎は風を起こし、熱風が斜面を駆け上がってくる。その迫力のスゴさに、ふと何かの映画の1シーンが頭をよぎった。団員たちは熱さに耐え、ふりかかる火の粉を払いながら、燃え崩れる井桁を鳶(とび)を使って整える。再びポンプが作動し始め、下草に燃え移った火に水がかけられる。「大」の字の両サイドには、延焼を防ぐためにじっと火を見張る団員もいる…。「大文字焼き」の現場は、ただ火を焚くだけかと思いきや、「大」の字をきれいに見せるためにこんな苦労もしてるのだと初めて知った。こうした作業がなければ、「大」の字もただの山火事にしか見えなくなってしまうという。

火は激しく燃え盛り、パチパチッと薪が爆ぜ、火の粉が飛び散る

激しく燃えた炎も、点火から30分を過ぎた頃になると次第に火勢が弱まっていった。自然に鎮火してゆく火を団員たちは少し余裕をもって見守っている。だんだんと消えゆく火を見ていると、祭りが終わり、夏が去ってゆく…、そんな一抹のさびしさに襲われる。今夜の「大文字焼き」のために力を注いできた祭りの関係者、準備作業をした職人さんたち、そして消防団員たちの夏も、炎とともに間もなく完全燃焼する…。

86基すべての火床一つ一つに放水

午後9時。消火活動に移り、86基すべての火床一つ一つに放水が始まった。ホトホトと燃える残り火に水がかけられるたびに、ジューッと白い蒸気があちこちから立ち上った。そうして火の気が完全になくなったのを確認したところで、ポンプやホースを撤収。9時30分、ススと灰にまみれ、そして汗まみれになった団員たちは、炭の焼けた匂いだけが残る大久保山の現場を後にした。

かくして「大文字焼き」は燃え尽き、祭りは幕を閉じた。消防団の皆さん、夜の暗い急斜面で燃え盛る炎の危険と隣り合わせの中で、無事に作業を終えられて何よりでした! そして夜遅くまで、本当にお疲れ様でした!

「大文字焼き」の現場、大久保山の中腹には、大勢の人のたくさんの苦労がありました。山の草刈り、薪の運搬と設置、そして炎に囲まれた中での作業。こうした裏方の力があってはじめて“主役”も燃えて演じることができるのです。またいつかどこかで、一宮の「大文字焼き」の火を見た時は、陰で頑張る人たちのことを、どうか思い出してください。 (取材:しんたま)

夏の夜にくっきりと浮かぶ大の文字

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